チャオ! ナカキタです。ワールドカップまっただ中のヨコハマから、ワールドワイドなキッチンスクールのレポートをお届けしています。


 さてさて、今週号の「anan」で、Nikiユs kitchenが(小さく)紹介されています。お料理習いながら英語をマスター、みたいな切り口で。うん、確かにそれはそう。英語をマスターするために、興味のある分野から入るのは効果 的な方法だよね。
 実際、Nikiの教室に問い合わせてくれる方はたくさんいて、目的もさまざまです。英語を習いたい、使いたい、ブラッシュアップしたい、という人もいるし、珍しいお料理を習いたいという人も、外国のことを知りたいという人もいます。
 だけどね、基本はやっぱり「お友達になろう、仲良くしよう」ってことだと思うのです。


 先日、横浜でサウジ対アイルランド戦があった日、東神奈川駅で、緑の服を着たアイルランドのサポーターさんが、賑やかに歌いながら横浜線を待っているのに出会いました。それがあんまり楽しそうだったので、思わず「グッド ラック!」と声をかけたら、「ありがとう、君たちも!」という声が返ってきました。頑張れニッポン!も楽しいけど、そして勝ち進んでいく日本チームを見るのも嬉しいけど、こういう瞬間に出会うとき、ワールドカップが近くで開催されてよかったな、と心から思ったりするわけです。
 そうして考えてみると、サッカーもお料理も、そして英語も、どれも世界の共通 語なんだよね。一直線に目的とか結果ばかり追求するんじゃなくて、それを使っていっぱいコミュニケーションできたら、きっと楽しいと思います。Nikiのお料理教室はそういう場所なんです……サッカーはしないけどね。


   というわけで(どんなわけだ?)、料理を通していろんな国に出会えるNikiのキッチン、今回はエジプトの家庭料理を教えてくれる、ランダ先生の教室です。


第十回 カルチャーショック満載。エジプシャン・ディナー 

   
     



夏のような明るい日差しが照りつける、5月の日曜日。観光客で賑わう、港の見える丘公園から歩くこと5分、韓国総領事館の前にナカキタはぼんやりと立っていた。ちょっと早く来過ぎたようだ。はす向かいの教会では、結婚式をやっているらしい。覗いてみると、真っ白なウエディングドレスを着た花嫁さんが、みんなに祝福されていた。なんだかいいもの見たな、とほんわかした気持ちになったところへ、ランダ先生がやってきた。こちらの姿を見つけると、ニコニコ笑って手を振った。
 ハーイ! 初めまして。ごめんね、待った?
 こちらこそ、早く来すぎてごめんなさい。今日はよろしく。
 普通に挨拶をすませて、早速ご自宅へと向かう。外国人墓地や港の見える丘公園から数百メートルしか離れていないのに、観光客の姿はほとんど見かけない。山手の中の山手、というたたずまいの家々を見ながらしばらく歩くと、そこがランダ先生のお家だった。
 今日、一緒に講習を受ける3人の生徒さんはまだ来ていないようだ。ランダ先生も準備をするためにキッチンで働いている。所在なくリビングのソファにすわっていると、二階から女の子が2人、降りてきた。名前を聞いたら、お姉ちゃんはノーラ、妹はマラックだとか。すぐご近所の、インターナショナルスクールの幼稚園と小学校に通 っていると言う。
 お姉ちゃんは先週から日本語を習い始めたそうで、得意そうに日本語で10まで数えてみせた。妹も負けずに話しかけてくる。幼稚園のお友達のなんとかちゃんがどうしたとか。んも〜ぉ、ほんっとに可愛い。二体の動くおしゃべり人形みたい。プニュプニュしたい(意味不明)。


 しばらくお人形さんたちと遊んでいたら、3人の生徒さんがやってきた。ヒロエさん、ヒロミさん、そして常連のレイさん。みんなで軽く自己紹介して、講習はスタートした。
 今日のメニューは、オクラのメインディッシュとタヒニサラダ、そして、デザートにバクラワ。
 ランダ先生によると、エジプトでオクラはとてもポピュラーな野菜なのだという。でも、日本のものに比べるとずっと小ぶりで、一口で食べられるくらいのサイズだ。もちろん、日本で手に入るオクラを使ってもまったく問題ない。今日は、これをトマトミートソースで焼き上げる料理を作る。そして、細かく砕いたパスタ入りライスを付け合わせにいただくのだ。パスタをご飯に混ぜ込むという発想は、日本人にはないものだ。強いていえば、
「そばめし」だろうか?   
 エジプトでは、この料理に限らず、メインディッシュに野菜料理が出ることが多いらしい。そういえば、モロヘイヤなんて野菜も、確かエジプト原産だったよね。ネバネバだけどクセのない味、というのがエジプト野菜の得意パターンなのか。
 バクラワ、というのも聞き慣れない名前だ。
「これはね、ラマダンの夜にパーティを開いて食べるお菓子なの」と、ランダ先生。
 そういえば、以前、ミルナ先生のシリア料理の教室でも、「ラマダンのお菓子」を教えてもらったなあ。同じイスラム文化圏ということで、食文化にも近いものがあるのかもしれない。そうそう、ランダ先生はムスリム、つまり、イスラム教徒なのだ。


 ところで、横浜にエジプト人は何人住んでいるか知ってる? 答えは、4人。つまり、この国際都市に住むエジプト人は、ランダさん一家だけ、ということだ。これは意外だった。エジプトっていう国を、私たちは馴染み深く知っているつもりになっている。
 世界史の教科書でもエジプトの名は最初に登場するし、ピラミッドやスフィンクスの姿は、誰でも思い浮かべることができる。クレオパトラは人類の歴史上最強の美女だし、ミイラと言えば、エジプトでしょう。それから、サハラ砂漠にナイル川。
 でもこれって、たとえば私たちが外国に行って何かというと「ゲイシャ・サムライ・フジヤマ」なんて言われるようなもの?
 で、結局私たち、というかナカキタは、今のエジプトのことなんか何も知らない。そして、実際に横浜で暮らすエジプト人はたった一家族なのだ。何かとても不思議な気がした。
 そんな不思議なエジプトの、まったく馴染みのない料理の中でも、今回いちばん大きなカルチャーショックを受けたのが、タヒニ・サラダだ。
 だってこれ、私たちの感覚で言ったら、サラダじゃないもん。ソースだもん。エジプトではこれを、パンなどにつけて食べるのだ。そして、それを「サラダ」と呼ぶ。呼ぶのか? 作りながらずっと、これはエジプト風ドレッシングだと思っていた。まさかサラダ本体だとは……うーむ。
 だけど、重要なのはこのタヒニサラダが、ものすごく美味しいってことだ。香ばしく、こってりしたゴマの風味に、レモンとヨーグルトの酸味が混ざると、何とも言えず深い味を生み出す。そこに、クミンの香りが重なり、独特のエキゾチックな食感を引き出すのだ。
 このタヒニサラダを盛りつける前に、ランダ先生は庭に降りて、ハーブを摘んできた。匂いを嗅がせてもらったら、強い涼しげな香りがした。これが「エジプシャンパセリ」なんだそうだ。
「日本では手に入らないから、こうして家庭菜園で栽培しているの」
 ということらしいけど、大丈夫、イタリアンパセリで代用できる。簡単にできるので、誰かを夕食に招くときなんかに、毛色の変わったサイドメニューとして出してみるとポイント高そう。持ち寄りパーティの隠し球としても、有効だ。


 出来上がった料理をいただきながら、いろいろと聞いてみた。
 ランダ先生の一家が横浜に来て1年半。その前は、イギリスに2年、中国に2年、インドネシアに1年というふうに、世界中を引っ越ししてまわっていた。イギリスにいたときには、エンジニアの学位 を取って、環境省で働いていたという。その彼女が言う。
「イギリスの食べ物にはまいったわ。だって、塩とコショウでしか味付けしないんだもの」  たしかに、タヒニサラダの奥深い味を知ったら、それも無理ないと思った。そこで、
「イギリスと言えば……」と、水を向けてみた。
「去年、ロンドンへ行ったとき、大英博物館でエジプトの部屋を見て感動しました」  すると、ランダ先生は笑いながらこんなふうに答えた。
「ああ、ミイラ、宝飾品、ロゼッタストーンね。あれは全部、彼らが私たちから盗んだものなのよ」
 ラマダンのお菓子、バクラワを食べながら、イギリス人がエジプトから奪ったものと、奪えなかったものについて考えてみた。奪ったものは博物館に、奪えなかったものは、たとえばこんなふうにそれぞれの家庭のキッチンに、ちゃんと残っているんだな、と思った。  


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本日のレシピ

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◆オクラのメインディッシュ(Okra main dish)
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◆ソース (材料)

タマネギ 大1コ 
すりつぶしたニンニク大1 
ニンジン1コ 
トマトピューレー 大1 
水3C(カップ) 
鶏ムネ肉ミンチ150g(好みで加減) 
レモン汁数滴 
塩、コショウ適宜 
マーガリン大1 
ブイヨンキューブ2コ 
ホールトマト2コ 

◆パスタライス (材料)

米2C 
冷たい水2C 
細かく刻んだ細いパスタ大2(好みで加減) 
バター、オリーブオイル各大1 

◆(作り方)

1. タマネギはざく切り。ニンジンは輪切り、オクラはジクを取って斜めに二つに切る。

2. 鍋にマーガリンとニンニクを入れ、タマネギを加えて少し茶色になるまで炒める。

3. トマトビューレーを水1Cで溶いて2に加え、塩、コショウで味を調えて5分ほど煮込む。

4. 3にニンジンを加えて10分、その後、鶏ムネ肉ミンチを加え、ふたをして煮込む。ソース状になったら火から下ろす。

5. 耐熱容器にオクラを敷いて、4のトマトソースを上からかぶせ、ホールトマト、残りの水にブイヨンキューブを溶いたものを加えて、250度のオーブンに30分かける。

6. パスタライスを作る。米は水洗いしてざるに上げる。

7. フライパンにバターを溶かし、オリーブオイルを加えて温め、細いパスタを中火で炒める。こんがり焼き色がついて香ばしい匂いがしてきたら、米を加え、混ぜる。

8. 全体に油がまわり、パラパラになったら冷たい水を加える。最初は強火、水分がなくなってきたら極弱火に落とし、20分くらい炊きあげる(炊け具合をチェックしながら)。

9. 炊きあがったら、底からかき混ぜてしばらくふたをして蒸らす。

10. 5が出来上がったら、レモン汁を振りかけ、ふたをして7分ほどおく。

11. 10に9を添えてすすめる。


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◆テヒニ・サラダ(Tehine Salad)
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◆(材料) 

ゴマのペースト1瓶の半分 
塩・コショウ適宜 
クミン小1 
酢大1.5 
ヨーグルト大1 
湯適宜 
レモン汁数滴 
エジプシャンパセリ(イタリアンパセリで代用可)
チリパウダー各適宜


◆(作り方)

1. ゴマのペーストをボウルに取り、お湯を少しずつ加えて練る。スプーンを持ち上げてタラタラと落ちるくらいの状態になったら、酢、クミン、塩、コショウ、ヨーグルトを加えてさらに練り合わせ、最後にレモン汁を数滴落とす。

2. 人数分のスープ皿に1をつけて、上にパセリとチリパウダーを彩りよく乗せる。


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◆バクラワ(Baklawa)
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◆(材料)
 
春巻きのシート20~25枚 
マーガリン大2 
クルミ適宜 
砂糖1/3C 
水1C
レモン汁半個分


◆ (作り方) 

1. 小鍋でマーガリンを湯煎にかけて溶かす。

2. 大きめの耐熱皿に春巻きシートを4~5枚敷き詰め、上に溶かしたマーガリンを塗って、上にシートを重ねる。これを三回繰り返したら、その上にナッツを散りばめる。

3. さらに上にシート、マーガリン、シートと交互に重ね、最後にマーガリンを上に塗る。

4. よく切れるナイフかピザカッターで、4を5・角にカットしてから、180度に熱しておいたオーブンで20分焼き上げる。

5. シロップを作る。鍋に水と砂糖を入れ、煮詰まったら火から下ろし、レモン汁を加える。

6. 食べる直前に6を焼き上がったバクラワにかけてすすめる。


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エッセイストの紹介
中北久美子 ナカキタクミコ
(プロフィール)
中北久美子 

ナカキタクミコ 名古屋の情報雑誌月刊「KELLY」編集から編集 デスクを経てフリーに。以後、雑誌・広告・社内報・官公庁の出版物・ゴース ト・ ラジオの構成などで企画・取材・執筆を担当。結婚後、神戸、金沢、富山と拠 点を 移しながらその土地の取材物を中心にライターを継続。今後は、女性のライフ スタ イルに関する記事を書いていきたいと考えている。 現在、横浜在住。好きなものは温泉、お散歩、お茶、古い建物、犬、60年代 のR &B、70年代のブリティッシュロック、80年代のスィートレゲエ、「館」のつ く場 所(水族館・博物館etc・・・)、浮世絵、特撮ヒーロー、伝奇小説、南の海、そ して一 人息子とのおしゃべり、などなど。

「よみたい!ネット」に「横浜お散歩マニア」連載中 http://www.yomitai.net/