第三十三回 「ドイツの赤ワインを楽しむ秘訣」  

             KUNKA


写真:Yuko

10月とは思えないほど陽射しが強く、風が心地よく感じられる週末、横浜の高台の上にあるベアのおうちにおじゃましました。ドイツ・シュトゥットガルト近郊出身のベアのクラスは日本語クラス。3年間熱心に勉強し、日本人の友達とも積極的に会話して磨いた,わかりやすい日本語での楽しいクラスが始まります。

今日は秋のワイン祭りのお料理をテーマに、ワイン生産の盛んなヴュルテンベルク出身らしいベアのお祭りメニューが並びました。

メニューは
●セモリナ粉のボール入りスープ(Griesskloesschensuppe)
●オニオンケーキ(Zwiebelkuchen)
●サワークリームのパンケーキ(Daetcher)
●りんごのクーヘライン(Apfelkuchelein)

この日の料理はオニオンケーキからスタート。イーストの入った生地を延ばし、炒めたたまねぎがメインのフィリングを流し込んでオーブンで焼くケーキです。この時期各地でワイン祭りが開催されるドイツでは、ワインのお供にかかせないメニュー。どこでも食べられるポピュラーな料理ですが、生地を発酵させたり、何キロものたまねぎをみじん切りにしたりするなど、意外に手間がかかります。今回も生地作りや2キロ!のたまねぎのみじん切りなどの作業は、ベアがすべて済ませておいてくれました。お料理好きなお母さまとは違うと自分で言いつつも、手抜きなしのこだわりは受け継いでいる様子…。



さらに「同じケーキを二つ作ってもつまらない」と、オニオンケーキの生地を使って急遽キッシュ・ロレーヌも焼くことに。とっさの機転でお祭りの食卓はますます賑やかに、楽しくなっていきます。





セモリナ粉をマーガリンや玉子で練り、楕円に形作って煮立ったブイヨンに落とすスープまで仕上げたところで、まず食事。「お天気がいいから外で食事をしましょう」と、何とお庭でのランチタイムになりました。






まさに気分はワイン祭り。用意されたベアの出身地の赤ワインが用意され、パーティが始まります。




まずはビーフベースのスープ。濃厚なうまみがセモリナ粉のボールにしっかりしみています。





オニオンケーキはサクサクの生地にトロトロのたまねぎフィリングがぴったり。



即興のキッシュも隠し味のパルメザンチーズが効いて、ワインもどんどん進んでしまいそう。ベアのおしゃべりも楽しく、お庭のベンチにお尻から根が生えそうなくらい和んでしまいましたが、料理はまだまだ途中。腹ごなしも兼ねて、第二ラウンドへ突入です。


後半はイースト生地を丸く延ばし、サワークリームと玉子を混ぜたソースをトッピングしたデッチャーと、りんごを使ったデザートのクーヘラインです。ベアがあらかじめ用意しておいてくれた大量の生地を次々に丸めて延ばし、トッピングを載せて仕上げていきます。「お好み焼きみたい!」という声に途中でベアが取り出したのは、なんと鰹節。ふだんは日本食オンリー、漬物も味噌も大好きというベアの台所には、日本の食材・調味料がいっぱいです。「デッチャーは何を載せてもいいから、これも載せちゃおう」というベアの音頭で、生地の上で鰹節がふわふわ踊り出しました。さすがお祭りメニュー!



オーブンでデッチャーを焼いている間に、りんごのスライスにビールの入ったパンケーキ生地をまぶして焼いたクーへラインも完成。コーヒーと一緒に味わいながら、すでに日は暮れかけ、風が肌寒く感じられるまで、おしゃべりの時間は続きました。



日本に来て3年。日本語を学び、大好きな太鼓を通じて日本人と交流することを選んだベアは、毎日の生活でもできるだけ日本語を使うことを心掛けています。太鼓の集まりのあと日本語のクラスがあったりすると、頭の中が完全に日本語になってしまい、ご主人へのメールまで日本語になってしまうんだとか。

回りのことに幅広く興味を持って活動の場を広げ、いろいろなところに出掛けていく(電車賃の安い乗換方法を探すことも忘れない、さすがドイツ人!)ベアは、可愛らしい好奇心は忘れなくても、自立した大人の女性なのだなと思いながら、ハロウィンのオーナメントに彩られた家を後にしました。




エッセイストの紹介
Kunka氏



出版社勤務を経て現在フリーランスの編集者・翻訳者・カードライター。専門は映画・ドイツ語・語学学習など。月刊誌で映画紹介の記事などを手掛ける。IOさんに誘われてNiki's Kitchenを知り、斬新なメニューと先生方の温かい人柄にすっかりハマる。自国の食文化を食卓で表現し続けるNiki's Kitchenのスピリットを毎日の食生活に
生かすべく奮闘中。趣味は日本のプロ野球観戦。左腕軟投系の投手に弱い。