第三十四回 「結婚式のスープが元気をくれる」  

             KUNKA


写真:Yuko

ペトラの最後のクラスから半年、Niki's Kitchenにドイツの新しい先生が仲間入りしました。名前はハイク。今年の1月に日本にきたばかりの、ペトラの友達です。出身地もペトラの故郷に近いドイツ東部の町ドレスデン。そんなこともあってか、帰国したペトラのことを懐かしく思い出しながらのクラス開始となりました。

 メニューは、
●結婚式のスープ(Hochzeitssuppe)
●ドイツふうチーズヌードル(Allgaeuer Kaesespaetzle)
●ヨーグルトケーキ(Joghurttorte)
●チョコレート・ムース(Mousse au chocolat)

の4品。

結婚式のスープは、鶏一羽を丸ごと使って取ったスープに、鶏もも、人参、玉子の浮き実、
そしてセモリナ粉のボールをあしらったクリアスープです。前日に仕込んであったというブイヨンを冷蔵庫から出すと、ゼラチン質ですっかりぷるぷる状態。見るからに濃厚そうなこのスープ、結婚式でもなければ作れないというほど手間と時間がかかることから結婚式のスープと呼ばれるのですが、登場するのはウエディングパーティに限りません。クリスマスなどの特別な集まりにはもちろんのこと、重要なお役目は家族のだれかが体調を崩したとき。鶏肉と野菜のエッセンスがたっぷり溶け出したスープで、おなかの中から健康を取り戻す、まさに特別なスープなのです。

一方、チーズヌードルは玉子のたっぷり入ったトロトロの生地を専用の器具に入れ、少しずつ熱湯に落としながら茹でていくのが特徴的。たっぷりのチーズと、バターで炒めたたまねぎを合わせていただきます。







そして欠かせないデザートにはヨーグルトケーキ。ハイクの息子さんも大好きだという定番スイーツです。ビスケット生地を焼いて型に敷き、上に甘さ控え目のヨーグルトクリームをたっぷり注いで、冷蔵庫でしっかり冷やします。



巨大な大根おろしのようなSpaetzleメーカーや、信じられないほど大量のチーズ、そして何より2本のスプーンを使ってセモリナボールを器用に丸めてしまうハイクの手際のよさに見とれているうちに、テーブルはすっかり整ってしまいました。





ハイクがドイツのワイナリー巡りをして見つけたという、とっておきの白ワインをお供に、お待ち兼ねのランチタイムが始まります。





まずスープを一口口に運ぶと、程よい塩味に引き立てられた濃厚なうまみが口に広がります。風邪を引いたときにはかかせないというのもうなずける、パワフルでしかも優しい味。セモリナ粉のボールのおかげでかなり食べごたえがあるにも関わらず、お代わりしたくてたまらなくなる味です。

チーズヌードルは、独特の食感とチーズの甘みが、香ばしいたまねぎの香りでいっそう引き立っています。チーズはエメンタールでなければダメ、というハイクのこだわりに納得できる、柔らかな風味の生きた一皿。

そして、ダブルデザートのムースとケーキ。チョコレート・ムースはしっかり甘く、ベイリーズの香りの効いた大人の味。



一方ヨーグルトケーキは、甘さと酸味のバランスが程よく、ビスケットベースの軽さもあってこちらも大人気。「ちょっと大きいかな…」と思っても、いつの間にかおなかにおさまってしまいます。

メニューにも味のバリエーションにも大満足な食卓でした。

ハイクと一緒に食卓を囲みながら、登場する話題はやはり食べ物のこと、そしてまだ始まったばかりの日本での暮らしのこと。日本料理が大好きで、家族で寿司を食べることも多いというハイクは、自分でも日本料理を習い、だしを取って味噌汁を作ったりもするそうです。「味噌汁のだしは何を使っているの?」なんてびっくりするような質問も飛び出しました。
 まだまだ慣れないことも多いけど、新しい出会いを大事にしながら日本での生活を楽しみたいというハイクと、もっと一緒に料理をしてみたいなと思う午後でした…。




エッセイストの紹介
Kunka氏



出版社勤務を経て現在フリーランスの編集者・翻訳者・カードライター。専門は映画・ドイツ語・語学学習など。月刊誌で映画紹介の記事などを手掛ける。IOさんに誘われてNiki's Kitchenを知り、斬新なメニューと先生方の温かい人柄にすっかりハマる。自国の食文化を食卓で表現し続けるNiki's Kitchenのスピリットを毎日の食生活に
生かすべく奮闘中。趣味は日本のプロ野球観戦。左腕軟投系の投手に弱い。