第三十七回 「ソースにジンジャークッキー!? 伝統料理に知恵をプラス」  

              文:
Kunka  写真Etsuko



ソースにジンジャークッキー!? 伝統料理に知恵をプラス

来日して3年、日々の食事は日本食、趣味は和太鼓、練習の後の居酒屋が大好きというベアにとって、クラスで教えるドイツ料理はもはや特別な時のもの。でも、ふるさとの料理をより美味しく、より本格的に味わってほしいという思いは決して揺るぎません。今回も「家ではほとんど作らないの…」と言いながら、ドイツを旅行すればたいてい一度はお目にかかる伝統料理の定番を、ベアとっておきの味の秘訣満載で教えてくれました。

 

メニューは
●チキンコンソメスープ(Huehnerbruehe geklaert)


●ザワーブラーテン(Sauerbraten)


●じゃがいもとパンのクヌーデル(Kartoffel/Semmelknoedel)


●紫キャベツの赤ワイン煮(Rotkohl)


●レモンクリーム(Zitronencreme)

メインディッシュのザワーブラーテンは野菜(人参、たまねぎ、セロリなど)やスパイス(タイム、イブキ、胡椒など)と一緒にマリネしておいた牛肩ロースの塊を、大きな鍋で蒸焼きにする、ドイツで最も有名な料理のひとつです。今回は、ベアが一週間前にマリネ液を作って肉を漬け込み、冷蔵庫でずっと寝かせていました。

冬に作ることの多い料理なので、ドイツでは地下などの比較的温度の低い室内に置いておくことができ、3日ぐらいで十分なのですが、暖かい日本ではさすがに難しく冷蔵庫保存必須。その場合どうしてもマリネ液のしみ込みが悪くなるので、一週間は置かないといけないそうです。


肉を煮込みながらデザート作り。今回はずっしり重めのメインディッシュなので、合せるのはさっぱりしたレモンクリーム。レモンを6個絞り、玉子とゼラチンで甘さ控え目の爽やかなデザートに仕上げていきます。

付合せのひとつ紫キャベツは、瓶詰のものが入手できなかったため、生の紫キャベツから作ることに。水分の多い日本の紫キャベツではずいぶん勝手が違うとのことでしたが、それでも細く切ったキャベツをベーコンと炒め、スパイス、赤ワイン、りんごの薄切りとともに煮込むと、ドイツでおなじみのサイドディッシュが出来上がります。



ここで登場したフレーバー用のたまねぎ坊主があまりに可愛くて一同驚嘆。たまねぎを半分に切って一本だけ切り込みを入れ、そこにローレルの葉を挟み込んで口に、クローブを2本刺して目に見立てただけなのですが、なんだか心が和む表情を見せています。鍋に入れるのがちょっとかわいそうな感じですが、しっかり煮込んでもローレルやクローブがキャベツの中に紛れてしまわないので、後で簡単に取り出すことができる優れものなのです。



もう一つの付合せにはじゃがいもとパンを両方使ったクヌーデル(ダンプリング)を作ります。マッシュしたじゃがいもと小さなサイの目に切ったバゲットをパセリやナツメグで味付けする、こちらも定番の一品。しかしベアはこれをこねるときの触感が苦手だとかで、家でもあまり作らないそうです。ボール状に丸めた後は、スチーマーに並べ、なんと肉を煮ている鍋の上に重ねてスチーム。ガス代を節約する、賢い知恵も登場しました。







しかしさらに驚く知恵が登場するのはこれから! あらかじめ取っておいたチキンコンソメに、軽く混ぜた卵白を8個分加え、よく混ぜながら加熱していきます。するとスープの濁りやアクが卵白に吸い取られ、これをふきんで漉すと、透き通った琥珀色に変身! あまりの見事さにびっくりです。この仕上がりを見ると、大量の卵白も恐れず使ってみたくなりそう…。


最後にザワーブラーテンのソースを仕上げて料理の完成。鍋に張り付いた部分も美味しいソースの元になるので、すべてこそげ落として丁寧に裏ごし。ここで新たに登場したのがなんと、ベアお気に入りのIKEAで購入した、スウェーデン産のジンジャークッキーでした。今回のザワーブラーテンはベアの出身地シュヴァーベンのスタイルなのですが、ドイツで最もポピュラーなライン地方のザワーブラーテンにレープクーヘン(ドイツのクリスマスクッキー)が入っていることから、その雰囲気も取り入れたいと考えていたベアがIKEAで閃いたというオリジナルアイデア。レープクーヘンと材料が似ているので、独特のスパイスの風味が簡単にプラスできます。小さく砕いてソースに混ぜた後、サワークリームなどで味を調えて完成です。

「熱いうちにいただきましょ!」というベアの掛け声で、さっそくスープの試食。ほれぼれするくらい澄んだスープは見た目も贅沢ですが、味もさらに深みのある濃厚さ。トッピングしたパセリとナツメグが風味をいっそう引き立てます。味はしっかり目につけておき、卵白に少々吸い取られても平気なようにしておくことが、味を安定させる秘訣なのだそう。



メインディッシュのザワーブラーテンも、酸味の強いソースにジンジャークッキーを加えたことでぐっと親しみやすい味わいになり、ごはんにかけたい!という声まで聞かれるほど大人気。クヌーデルも、じゃがいものふんわり感とパンの香ばしさがうまく合わせられた理想的なコンビネーションでしたし、紫キャベツもりんごやワインの風味をしっかり吸い込んでいて、あっという間に完食されていました。

こってり系のザワーブラーテンの後にはなにがいいかとずっと考えていたベアがとうとう選び出したというデザートのレモンクリーム。レモンの爽快な酸味と軽い食感がベアの思惑通りのベストマッチでした。

食後にはなんと、ベアのお母さんがドイツからネット経由で登場。話好きなところはさすが親子という気さくなお母さんに、テレビ電話を通して皆で自己紹介。クラスの楽しい雰囲気を、お母さんにも味わってもらいました。

ベアの出身地域であるシュヴァーベンの人たちは、大勢で集まって楽しむことが大好き。ベアも大家族で育ち、たくさんの人と食卓を囲む機会をとても大切に考えています。今ハマっている居酒屋も、もちろんクラスも、ベアにとっては大勢で楽しく食べる貴重なひととき。できる限り大事にしていきたいという思いが、そこかしこに込められているように感じられました。



エッセイストの紹介
Kunka



Profile:

出版社勤務を経て現在フリーランスの編集者・翻訳者・カードライター。専門は映画・ドイツ語・語学学習など。月刊誌で映画紹介の記事などを手掛ける。IOさんに誘われてNiki's Kitchenを知り、斬新なメニューと先生方の温かい人柄にすっかりハマる。自国の食文化を食卓で表現し続けるNiki's Kitchenのスピリットを毎日の食生活に
生かすべく奮闘中。趣味は日本のプロ野球観戦。左腕軟投系の投手に弱い。