メリー・クリスマス! ナカキタです。
 この季節、特にクリスチャンってわけでもないナカキタも、ショーウインドウ がひときわ華やぐ街を歩くと、やっぱりうきうきします。玄関にはリース、リビ ングにはツリーを飾って、子どもには、サンタさんにお願いするものをさりげなく聞いたりします。そうして、まあいろいろあっても、とりあえず家族揃って平和に暖かく過ごしている日々を思い、満ち足りた気持ちになったりするわけです 。
 やっぱりクリスマスが「祈りの日」だということは、心のどこかに留めておい た方がいいよね。


 そういえば、先日ニュースで知ったのですが、アメリカでは最近、「クリスマ スシーズン」を「ホリデーシーズン」と呼び換えるようになっているんだって。キリスト教徒だけではなく、様々な神様を信じるすべてのアメリカ人が、それぞ れに祈りを捧げる日にしようという思いによるものだとか。この流れは、テロをきっかけにますます強まっているようです。
 共存について、人々が真剣に考え始めているというのは、明るいニュースだと思います。


 さて、中東のシリアに、キリスト教徒にもイスラム教徒にも、それぞれ関わりの深い食べ物があります。それは「アワマット」という揚げ菓子。
 キリスト教徒にとっては「聖なる日」のお菓子、イスラム教徒にとってはラマダン(=断食の月)の夜に食べるお菓子なのだそうです。小さな揚げ菓子の中に、2 つの神様が仲良く同居している、なんだか不思議な食べ物です。
 今回は、このささやかな共存と平和のお菓子、「アワマット」と、中近東風の リゾットとサラダを、シリア人のミルナ先生に教えてもらいました。



第六回 シリアの揚げ菓子「アマワット」と、リゾット「オゥズイー」

   



シリアは、地中海に一部面した中東の国だ。レバノン、トルコ、イラク、イス ラエルなど、それぞれに一触即発の火種を抱える国々と国境を接していて、時に 隣国との小競り合いがニュースで流れることもある。
 けれども、日本でシリアという国の名を聞くのは、そんな時くらいだ。そこに 住む人々が何を食べ、どんな言葉を使い、どんな生活をしているのか、私たちは例によって何も知らない。
 毎度のことながら、これまでまったくご縁のなかった国と、料理を通 して出合うことができるNIKIの教室に感謝。


 ミルナ先生は、笑顔がとてもチャーミングな若いママだった。お家は、クク、ルス両先生と同じ、本牧の外国人専用マンションにある。 入り口で優しそうなご主人と、4歳になるクリスチャン君が迎えてくれた。妹のサ ンタちゃんはお昼寝中だとか。
 それにしてもサンタにクリスチャン。この名前で一目瞭然、ミルナ先生のご一 家は、キリスト教徒だとわかる。
 実はナカキタは、シリアはイスラム国家だと思っていた。それで、おそるおそ る(?)そのことについて尋ねてみた。


「シリアは、長い間オスマン・トルコの支配地だったから、モスリムも多いけど 、その後フランスの支配下にあったから、その影響でキリスト教文化も残ってい るのよ」とのこと。そうなんだ〜。いや、ホントに何も知らなくてゴメンナサイ。
 なんでも、言葉の中にはフランス語が多く残り、食生活ではトルコ文化のなご りが多いのだとか。たとえば、ケバブとか、ターキッシュ・コーヒーなんかは、 シリアでもたいへんポピュラーなのだそうだ。 


 今回は、大船から参加のみどりさんと、保土ヶ谷から参加のひろみさんが一緒 だ。
 みどりさんとは以前、根岸の教室で一緒だったことがある。ひろみさんは、会 うのは初めてだけど、今回、ミルナの教室は二度目だとのこと。NIKIのキッチン にもリピーターが増えたなあ。なんか嬉しい。 


 作り方は、下のレシピ参照。
 実際に作ってみると、どれも決して難しい料理ではない。ただ問題は、これら の中の食材で、日本では手に入りにくいものがいくつかあるという点だ。
 たとえば、アワマットのシロップに使うローズウォーター。これは、日本では 売っていないらしい。じゃあたとえば、フルーツエッセンスを加えたらどうだろう。それとも、バラの香りにこだわるのなら、ローズティーで代用できないかしら? あるいは、フルーツ系のリキュールではどうだろう?
 ミルナ先生に言わせたら、それではアワマットにならないということで、却下 。だけど、試してみたっていいかもしれない。本場のものとは少し違うけれど、 代用できる香りを探しながら、もしかしたら意外なおいしさに合えるかもしれな い。(だけど、決して化粧品のローズウォーターは使わないこと!)  


 ミルナ先生の悩みは、こんなふうに、自分の国ではごく普通に手に入っていた食材が、ここではなかなか見つけられないことだと言う。これは、ククもルスも同じだろう。違う文化圏の国で自分たちの暮らしを続けるということは、想像を 絶する苦労があるのだ。


 二時間ほどで、三品のシリア料理が出来上がった。
 テーブルの上には、今日習ったメニューに加えて、自家製のピクルスとポテト サラダ、ヨーグルトドリンクまで出てきた。なんと大盤振る舞い。
 盛りつけのデコレーションが美しいミルナ先生の料理は、テーブルに並ぶと一 層映える。こうしてみると、メニューには野菜が多い。豆やヨーグルトやオリーブオイルなどもふんだんに使って、とてもヘルシーに見える。
「ダイエットにもいいわよ」
 ということらしい。
 さて、全員が食卓に着き、シリア語の乾杯、「サハテック」と言って、グラスを合わせてから試食に入る。


 シリア風リゾット「オゥズィー」は、タイ米独特の風味が香辛料とよく合う。 香ばしいスライスアーモンドが一層食を進める。日本米でもいけるとは言うが、 やはりここはタイ米でいきたい。普通の輸入食材屋で簡単に手に入る。


 「アワマット」は、基本的にはドーナッツに近い。だけど、口に入れた途端、 ローズウォーターのフローラルな香りが鼻を抜け、それからシロップでしっとり した表面に歯が立った途端、サクッとした噛みごたえが返ってきた。
 これが、2つの神様に愛でられている味なのか。そうは言っても、食感はなんとも庶民的だ。


 今回の料理の中で、おそらく「タブレ」の味は、もっともイメージがわきにくいと思う。
 大量のパセリとトマト、それにブルガルを使ったこの中近東風サラダは、これまで経験したことのない、つまり説明することがとても難しい味だ。あえて言葉で表現するとしたら、
 「みじん切りで粒状になった、それぞれの野菜の酸味、辛み、苦み、甘みがミン トの香りに引き立てられて口の中でぶつかり、さらに細かく歯ごたえのあるブルガルの粒々が、それらの後味を一つにまとめている」と、まあこんな感じだろうか。
 う〜ん、ますますわからないよね? ひとつ言えるのは、この不思議なサラダ 、その後ずいぶん日が過ぎても、時々本当に強烈にフラッシュバックしてくる、ということだ。
 この独特の食感と後味に引かれて、きっと私はまた、ミルナ先生の教室に戻っていくことだろう。 


 シリア語でごちそうさまは、「ダイメイ」。珍しい味に出会えて、知らなかったことがいっぱいわかって、心から満足のいくひとときだった。ダイメイ、ミルナ。そして、サンキュー。これは英語。
 ところで。
 シリアにはぶどうの葉っぱを使った料理があるのだそうだ。特別なぶどうでなくてもいい。果 実を採った後に残る葉を分けてくれる果樹園はないだろうか。できれば、あまり農薬の心配のないものだといい。もし、ご存じの方がいたら、ぜ ひNIKIあてに教えてください。


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本日のレシピ

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アワマット(シリア風揚げ菓子)
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湯C1/2(水1C 熱湯1/2C、合わせて約50℃)
小麦粉2C 
コーンスターチ1/2C 
ドライイースト大さじ1 
砂糖小さじ1 
塩ひとつまみ 
揚げ油適量シロップ(砂糖2.5C 水1.5C *ローズウォーター小さじ1 
**オレンジブロッサムウォーター小さじ1 レモン汁小さじ1)  
*なければ省略可 **なければオレンジエッセンス3〜4滴

1. コーンスターチと小麦粉をボールに混ぜる

2. ドライイーストに砂糖を加え、湯でもどす。

3. 1に2を入れて混ぜ合わせて、ラップをかけて30分ほどねかせる。

4. シロップを作る。砂糖を水に溶き、レモン汁を加えて中火にかける。スプー ンを持ち上げて、ゆっくり落ちるくらいに煮詰まったら、ローズウォーターとオ レンジブロッサムを加えてすぐに火を止める。

5. 揚げ油を280℃に熱し、発酵した3の生地を二本のティースプーンを使って、 油の中に落とす。一本のスプーンで生地をすくい、もう一本でまるめるように形 を整えながら落とすのがコツ。

6. 3〜4分ほどして、こんがりときつね色になったら油から上げ、すぐに4のシロ ップに2分ほど浸す。表面がしっとりとしたら順にお皿に盛りつける。

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オゥズィー(シリアのリゾット)
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バター大さじ2
挽肉250g
冷凍グリーンピース2.5C(250g) 
米(タイ米 なければ日本米でも可)2C 
水3C 
ミックススパイス(ブラックペッパー、ホワイトペッパー、シナモン、クローブ、コリアンダー)
合わせて小さじ1 
塩ひとつまみ、
コショウ適量 
スライスアーモンド2C

1. 米を洗い上げる 

2. バターを大鍋に入れて火にかけ、挽肉を炒める。しっかり火を通 しながら、 ミックススパイスを加える。スパイスは好みで配合も量も調整する。

3. 挽肉がそぼろ状になったら、グリーンピースを加え、塩をふり、ふたをして中火で3分蒸し煮にする。

4. 3に1を入れて、水を加える。よくかき混ぜて塩加減を見る。

5. 沸騰してきたら弱火にして、コショウをたっぷり振り入れて、再びふたをし て30分ほど炊きあげる。

6. スライスアーモンドをオリーブオイルでこんがりと炒めておく。

7. 5が炊きあがったら、ふたをとってかきまぜ、またふたをして5分ほど蒸らす 。

8. 7を大きなボールに詰めて、それを大皿に伏せ、山形に盛りつける。

9. その上に6のスライスアーモンドをびっしり張り付けるように飾る。


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◆タブレ(シリア風サラダ)
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*ブルガル大さじ4(なければ**クスクスでも可)大さじ4 
タマネギ1/2個 
パセリ大束
トマト4個 
オリーブオイル1/4C 
レモン汁1.5個分 
ドライミント小さ じ1 
塩小さじ1 
レタス一個分

*ブルガルは、中近東料理には欠かせない、小麦を原料にした細かい粒状の加工穀 物。残念ながら日本では手に入りにくい。

**クスクスは、輸入食品店では手に入りやすい。
クスクスを使うときには、15分 くらい水につけて柔らかくしておくる

1. パセリはみじん切り、トマトはヘタを取り、細かい角切り、タマネギはみじ ん切りにしておく。

2. ブルガルは網にとって水洗いする。

3. 2をボールに移して、タマネギと合わせ、その上に分量の半分くらいの角切り トマトを載せて、野菜の水分を吸収させるようにふやかす。

4. レモン汁を加え、パセリと残りのトマト、ドライミントを順次加えていく。

5. オリーブオイルと塩を振りかけ、全体になじませる。

6. レタスを花のような形に敷いた大皿に、5を載せて盛りつける。食べるときに はレタスで包むようにしていただく。

  
   

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エッセイストの紹介
中北久美子 ナカキタクミコ
(プロフィール)
中北久美子 

ナカキタクミコ 名古屋の情報雑誌月刊「KELLY」編集から編集 デスクを経てフリーに。以後、雑誌・広告・社内報・官公庁の出版物・ゴース ト・ ラジオの構成などで企画・取材・執筆を担当。結婚後、神戸、金沢、富山と拠 点を 移しながらその土地の取材物を中心にライターを継続。今後は、女性のライフ スタ イルに関する記事を書いていきたいと考えている。 現在、横浜在住。好きなものは温泉、お散歩、お茶、古い建物、犬、60年代 のR &B、70年代のブリティッシュロック、80年代のスィートレゲエ、「館」のつ く場 所(水族館・博物館etc・・・)、浮世絵、特撮ヒーロー、伝奇小説、南の海、そ して一 人息子とのおしゃべり、などなど。

「よみたい!ネット」に「横浜お散歩マニア」連載中 http://www.yomitai.net/