荻窪　英語と日本語でのクラスです

ブータンという国の名前を聞くと、多くの人が「唐辛子を野菜のように食べる国」というイメージを思い浮かべるかもしれません。険しい山々に囲まれ、耕作地が限られているブータンでは、唐辛子は何世紀にもわたって重要な栄養源となってきました。しかし、あまり知られていないのは、ブータン料理がインドやチベットの影響を大きく受けており、独自性と多様性を兼ね備えた食文化を築いていることです。

ここでは、ブータンの食文化を象徴する4つの料理を紹介します

（写真はビリヤニ以外はイメージです）

1. ブータン・ビリヤニ（野菜）

ビリヤニはもともとインドや中東で生まれた米料理ですが、長年にわたる交易を通じてブータンにも伝わりました。ブータンはインドと国境を接しており、古くから商人たちが山を越えて香辛料（黒胡椒やカルダモンなど）や米などの貴重な品々を持ち込んでいました。

ブータンでは、標高の高い地域では主にトウモロコシやそばが栽培されており、稲作は限られた地域でしか行われていません。しかし、インドとの交易が盛んな地域ではバスマティ米が普及し、ブータン独自のビリヤニが誕生しました。ブータン風の野菜ビリヤニは、インドの伝統的なミントや揚げタマネギの風味を受け継ぎながらも、唐辛子や高地で育つ根菜類や葉野菜を加えることで、独自のアレンジを加えています。

2. ブータン・フィッシュカレー

ブータンは山岳地帯にあるため、魚を食べる習慣はあまりないと思われがちですが、実は多くの川が氷河の雪解け水によって形成されており、淡水魚漁が行われています。近年では交通インフラの整備が進み、標高の低い南部地域で獲れた魚を山間部へ運ぶことも容易になりました。

ブータンの魚のスープには、インド料理の影響が色濃く表れています。例えば、タマネギやトマトを炒めてベースを作り、ターメリックやチリパウダーで味を整えるといった調理法が取り入れられています。しかし、ブータン独特の要素として、魚を最初に焼いて燻したような香ばしさを出してからスープに加えるという手法が用いられます。このシンプルながらも風味豊かなスープは、寒冷な気候の中で体を温め、栄養を補給する大切な食事として親しまれています。

3. ほうれん草とチーズのクロケット

ブータン料理を語るうえで、唐辛子は欠かせません。16世紀にポルトガルの商人によって南アジアに持ち込まれた唐辛子は、インドやチベットを経由してブータンにも伝わりました。標高の高いブータンでは栽培できる野菜の種類が限られているため、ビタミン源として唐辛子が広まり、日常的に大量に消費されるようになりました。

「ほうれん草とチーズのクロケット」は、唐辛子を組み合わせることで、辛さに奥行きを持たせています。ほうれん草の自然な甘みが唐辛子の刺激を和らげ、外側のカリッとした食感が心地よいアクセントになっています。従来のブータン料理では唐辛子を丸ごと煮込むことが多いですが、国際的な観光業の発展や若い世代の新しい食文化への関心によって、このような革新的な料理が生まれています。このクロケットは、伝統と現代的な調理技法を融合させた一品です。

4. ブータン・マトンカレー

ブータンの高地では、ヤクや羊の放牧が重要な産業となっています。特に羊は、高山の厳しい環境に適応した貴重なタンパク源として昔から重宝されてきました。チベットとブータンを往来する遊牧民の存在も、羊肉を食べる文化を根付かせる要因となりました。

伝統的なブータンのマトン料理は、シンプルな煮込みが一般的でした。しかし、交易の発展と国際交流の拡大により、クミンやガラムマサラ、チリパウダーといったインドのスパイスが取り入れられるようになり、調理方法が変化しました。スパイスを加えることで、羊肉の脂のコクを引き立てつつ、バランスの取れた味わいを生み出しています。このスパイシーなマトン料理は、都市部のレストランでも田舎の家庭でも広く楽しまれています。

ブータン料理：文化交流の反映

一見すると独自性が強いように思われるブータン料理ですが、実は長い歴史の中で周辺地域からさまざまな影響を受けながら発展してきました。唐辛子のように外部から持ち込まれた食材がブータンの食文化に完全に溶け込み、国民的な食材となった例もあります。

ブータンを訪れると、壮大な僧院や伝統建築だけでなく、歴史や文化のつながりを感じられる料理の数々に出会うことができます。料理の背後にある地理的・歴史的背景を理解することで、ブータンの食文化が持つ繊細な風味と大胆なスパイスの魅力を、より深く味わうことができるでしょう。

●ウェルカムドリンク　食事中のお茶　ビール　　など　（ビールのブランドはその時のよって異なります）