「マースレニツァ（バター祭り）」がわいわい終わると、ロシアではキリスト教の伝統に沿って、だいたい40日間の「大斎（ ポストノエ・ブリュード ）別名、四旬節」がはじまります。2025年だと、2月23日から4月19日。大斎は40日間に加えて、「聖週間」と呼ばれる最も厳格な6日間が続きます。 つまり、18日（土）まで続き、その後の日曜日が「復活祭」（フッカツサイ）です。

肉や乳製品、卵を控えたり、日によっては魚や植物油までガマンしたり。ちょっとストイックそうですが、その目的は単に「ツラい我慢大会」じゃありません。自分の欲望をコントロールして、謙虚さと強い心を育てていくための、いわば“心のトレーニング”の時間なんです。

近ごろ、ロシアの若者たちの間では、教会に行き、比較的厳密に大斎を守ろうとする人が増えています。「せっかくだし、健康にいいならやってみようかな」と、食生活を見直すきっかけにする人も。いろんな理由があって、いろんなやり方があって、そこもまた面白いところです。

この「大斎」期間に発展したロシア伝統の食文化が「精進料理（ポストノエ・ブリュード）」。肉や乳製品などを使えないなかで「どうやって美味しく栄養を取るか？」をとことん追求してきた、先人たちの知恵の結晶です。

動物性の脂肪を減らして野菜や果物、穀物、豆類を中心に食べていると、消化の調子が整ったり、コレステロールがいい感じに下がったり。さらに、カロリーや食材のバリエーションをしばらく控えることで、体が「細胞リフレッシュモード」に入りやすくなる（オートファジーって言うそうです）という説もあります。

ロシアではこんなことわざがあるんだとか。

「喜ばしい斎（ものいみ）は、主に喜ばれる」
ただツラいだけじゃなく、楽しみながら食べ方を見直すっていうのが、大斎（ヴェリキー・ポスト）のキモなんですね。

【ウェルカムドリンク】

サラダ：『修道院風ビーツサラダ』
修道院では非常に厳しい精進が求められたため、修道院発祥のヘルシーで美味しい野菜料理がロシア全土に広まりました。
修道院と聞くと「質素で味気ない食事」ってイメージがありませんか？ 実は全然ちがうんです。決まった食材のなかで「あれこれ工夫して、どう美味しくするか？」を真剣に考えた結果、むしろ独自の味わいが花開いたんだとか。
このビーツサラダもまさにその一例。6種類の自然の恵みがしっかり詰まっていて、甘みと酸味がふわっと広がります。シンプルだからこそ、「あれ、なんだか心に残る…」そんな味わいなです。写真はイメージです

【スープ】 『蕎麦の実と野菜のスープ』
ロシアの蕎麦の実（グレーチカ）は、日本のソバとはまったく別物。香ばしいナッツみたいな風味があって、スープにするとコクが増すんです。
寒い季節にこのスープを飲むと、体がじんわりあったまっていく感じがして、食物繊維もたっぷり。口に運ぶたびに「ああ、優しい味だなぁ」って思わずホッとします。

『白身魚の煮こごり（ホロジェッツ）』固めるため前日に作っておきます
ロシア文学にもよく出てくるお料理、“ホロジェッツ”という名前で登場します。ゆっくり煮出した白身魚のダシをゼリー状に固めたもので、ぷるぷる食感がまるで宝石みたい。コラーゲンも豊富でお肌にも嬉しい一品。
大斎のときは魚を食べない厳格な人もいますが、「特別な日だけは…」って、ちょっと贅沢することもあったそうです。
ホロジェッツは、ロシアの伝統的な料理で、特に19世紀のロシア文学において、日常生活や食文化を描写する際に登場することがあります。​例えば、レフ・トルストイの『戦争と平和』やフョードル・ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』などの作品で、食卓のシーンにホロジェッツが描かれています。​これらの描写を通じて、当時のロシアの生活様式や文化が伝えられています。写真はイメージです

パン：『天然酵母ライ麦全粒粉パン』　　作り済みサービス
ロシアの黒パンには、ものすごい歴史があります。大斎中、白パンや甘いパンが禁止されているため、このライ麦の黒パンがみんなの心と体を支えていました。
独特の酸味と深い香りは、じっくり発酵させるから生まれるもの。さらに、ヨーグルトよりも乳酸菌が多いっていうんだから、ちょっとびっくり。噛むほどにロシアの歴史と発酵の力を感じる…そんな奥深いパンなんです。写真は実物です

デザート：『焼きリンゴ ココナッツまたはアーモンドのトッピング添え』
「大斎（ヴェリキー・ポスト）中は卵や乳製品が食べれないためデザートなんて、ダメでしょ？」って思いがちですが、ちゃんと工夫すればOKです。甘さひかえめだけどちゃんと満足感のあるスイーツなんです。
焼くことで増えるペクチンには、アレルギーを抑えたりコレステロールを下げたりする働きも。
ココナッツやアーモンドのトッピングをひとふりすると、香ばしさとコクがぐっとアップ。口に入れると「ふわっ」と広がるやさしい甘みに心がほどけます。写真は実物です

ワイン：『デザートワイン』
実は大斎のあいだでも、週末にはちょっとだけワインが許されます。健康を守る意味合いが強いけれど、それだけじゃなくて、やっぱり特別なひとときを楽しむ大切な“儀式”でもあるんですね。
大斎（ヴェリキー・ポスト）が終わって、ようやく迎える復活祭の祝福には、やっぱりみんな少しだけほろ酔い気分で。そういう“小さなごほうび”があるからこそ、厳しい期間もがんばれるのかもしれません。

■ロシア風ブラックティー

ロシア風の紅茶には独自の淹れ方と提供方法があります。その方法を学び、味わい深い紅茶と当日のお菓子を楽しみにしてください。