料理映画:めぐり逢わせのお弁当 
 


 
 
<映画紹介>  

心を動かすお弁当のものがたり

『 めぐり逢わせのお弁当』



銀座の「シネスイッチ銀座」、横浜の「シネマ・ジャック&ベティ」、川崎の「川崎市アートセンター」ほか全国で順次公開中
http://www.lunchbox-movie.jp/




8/9から公開されている「めぐり逢わせのお弁当」。まだご覧になっていないなら、ぜひ観ていただきたい超おすすめの名作です。料理する人なら誰もが共感できると、世界中でヒットしています。



食べるのが自分一人だと、わざわざ料理する気にはなりません。どうせ食べるなら美味しい方がいいに決まっているのに、作る手間が面倒で、空腹さえ解決できればいいと納豆ごはんや納豆パスタ、レトルトカレーなどで済ませてしまいます。



それが、一緒に食べる人がいれば、疲れていても味噌汁かサラダくらいは作ろうかとなる。愛情、というよりは相手をがっかりさせたくないという気持ちや、喜んでもらいたいという気持ち。美味しかった、と言ってもらえたらうれしい。面倒でも作ってよかったと思えて、また作りたくなりませんか?。


「めぐり逢わせのお弁当」の舞台はインドのムンバイ。以前、映画「スタンリーのお弁当箱」でも紹介したように、インドはお弁当大国です。学校も給食ではなくお弁当が一般的で、オフィスで働く人もランチはお弁当という人が少なくありません。とくにインド最大の都市であるムンバイには、家のお弁当を配達するサービスが発達しています。


その配達サービス、なんと100年以上も前からあるのだとか。かつて、インドがイギリスの植民地だった時代に、英国企業で働くインド人たちが職場で支給されるイギリス式の食事に満足できず、自宅から弁当を届けてもらうようになったのがはじまりと言われています。



だったら弁当屋が発達してもよさそうなのになぜ配達なのか? と疑問に思う人もいることでしょう。インドにはカースト制があり、以前は現在よりカーストが厳しく捉えられていて、カーストが低い人間が作ったものを食べることをよしとしなかったり、宗教によって食べてはいけない食材が様々で複雑なため、自宅で作ったお弁当を配達してもらって食べる方が安心で手っ取り早かったということみたいです。

そしてなによりインドの人は、基本的に自分の家の味が好きなんでしょうね。インド人のプログラマーが多数働いているアメリカのシリコンバレーでも、この配達サービスがあるというのですから。


しかし、お弁当好きはいいとしても、どうして食べる本人が持って行かないのでしょう。その一番の理由は、暑くて料理が傷みやすいから。食中毒を防ぐ工夫として、少しでも調理してから食べるまでの時間を短くするために、あとから届けるということになったのだとか。


また、交通事情の悪いインドでは、通勤時間は日本のラッシュは比ではないほどに電車が混むので、弁当箱を持っての電車通勤はできないから、という説もあるようです。


いずれにしても、主婦は朝家族を送り出した後に、なたお弁当を作ることになるので大変ですね。

ちなみに、インドにも昼ごはんが食べられる屋台や食堂はたくさんあります。ただ、そういう店でランチするのは、お弁当を作ってくれる人がいないしがない男やもめや地方から出てきて一人暮らしをしている若者が多いようです。

そんなインドの伝統的な弁当箱は、ホーローやステンレスの円形の容器を積み重ねて金具で留めるタイプ。ダッパーと呼ばれています。それを運ぶお弁当配達人はダッパーワーラーと呼ばれています。ムンバイには現在約5000人のダッバーワーラーがいて、毎日17万5000個ほどのお弁当を配達しています。


このサービス、ネットワークが確立されていて、自宅と職場が遠く離れている場合には、自宅からはその地域のダッパーワーラーが収集し、それを電車に載せて都心に運び、都心ではそれぞれの地区の担当者に引き継いで配達されます。


しかも、配るだけでなく、ランチタイムが終わると職場や学校に空の弁当箱を回収に来て、再び自宅に戻してくれます。届けるだけでも十分な気がしますが、往復が基本。じつに至れり尽くせりなサービスです。この配達代行サービスが、「めぐり逢わせのお弁当」では重要なキーとなっています。



夫のために毎日お弁当を作るイラ。冷え切った夫の愛を取り戻したいと願うイラは、お弁当の味付けにも気を配ります。ところが、そんな愛情を込めたお弁当が、いつの日からかダッパーワーラーのミスで別の人の弁当と入れ替わって配達されてしまいます。


イラは夫にお弁当に入れたおかずとは違う料理の話をされて、そのことに気付きます。自分や家庭に無関心な夫は、料理の味付けを変えても気づかず、別の人が作ったお弁当と入れ替わっても気付きません。浮気して愛人のいる夫とはもう元には戻れないだろうと、イラの心にはぽっかりと大きな穴が開きます。



でも、どこの誰かはわからないけれど、自分が作ったお弁当を毎日残さず食べてくれている人がいる。そのことでイラは寂しさから救われていました。そして、夫以外の人に届いていると知りながらお弁当を作り続けます。


イラがお弁当箱に手紙を入れると、それを食べていた男性サージャンははじめて自分が間違って届いたお弁当を食べていたことを知ります。妻に先立たれた初老のサージャンは、家の近所の食堂にお弁当を頼んでいて、なぜか突然お弁当がおいしくなったことを不思議に思っていました。




ムンバイのお弁当の配達代行サービスについては、ハーバード大学の教授が検証したことがあって、誤配送の確率はわずか600万分の1だったそうです。バーコードを付けてコンピュータで管理するでもなく、昔ながらのアナログな方法でこれだけ正確に配達できるとは。


さすが3桁の掛け算が暗算できちゃうインドです。 そんな奇跡的な誤配で出会ったイラとサージャン。お互い顔を知らないまま、サージャンはイラが作るお弁当に心を動かされ、イラは自分の悩みを打ち明けるとそれに対して真摯に向き合って返事を書いてくれるサージャンに魅かれていきます。


「いつも残さず食べてくれてありがとう」「おいしかったよ」そんなやり取りで、心を開いていくふたり。



料理は人の心を動かすこともある。そして料理を作ることは、自分のアイデンティティを確認する作業でもあるんです。だから、料理することをおざなりにしちゃいけなんですよね。


また、自分が食べる側である時には、感謝の気持ちを言葉にして伝えないといけないんだと、この映画を観て改めて思いました。ありがたく、いただきます。

 

監督/脚本:リテーシュ・バトラ
出演:イルファーン・カーン、ニムラト・カウル、ナワーズッディーン・シッディーキー
制作:2013年 インド=フランス=ドイツ 1時間45分
配給:ロングライド

(C)AKFPL, ARTE France Cinéma, ASAP Films, Dar Motion Pictures, NFDC, Rohfilm—2013


 
 



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