料理映画:アリスのままで 

 



 


<映画紹介>

アリスのままで


6/27(土)より、新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー
alice-movie.com/
↑上映する劇場の詳細はHPでご確認ください。


大切な人のために料理を作れることが
いかに”幸せ”かを教えてくれる名作

 

text/キヌガサマサヨシ(夏休み計画)

主人公のアリスは50歳の女性。アメリカの一流大学で言語学を研究する学者であり、3人の子どもの母であり、医学博士の夫を持つ妻でもあります。そんなアリスに、予想もしなかった運命が襲いかかります。

子どもたちはすでに成長して子育てを終え、自らの仕事に生きがいを感じて邁進し、充実した生活を送っているアリス。ある日、言語学の講演中に話すべき言葉を忘れてしまいます。その時は、「あらやだ、私ったらこんな時に度忘れしちゃうなんて」と軽く受け流します。ベテランの役者でも舞台に立ってセリフを忘れて頭が真っ白になることがあるというくらいだから、気にする必要はないと、自分に言い聞かせたことでしょう。



後日、今度はジョギングに行くと自分がどこにいるかがわからなくなります。自分が教壇に立っている大学のキャンパスの中にいることはわかっているのに、自分のいる空間が認識できず、どちらに行けば自宅に帰れるのかがわからなくなります。これはもうただの物忘れではないと確信し、その事実の大きさに自制心を失います。

離れて暮らしている子どもたちが、久しぶりに帰って来る。そして家族で揃って食事をするために、得意な料理を作ろうと腕を振るっていると、アリスはその作り方がわからなくなってしまいます。何度も作って来た料理なのに、どうしていいのかまったく思い出せずに戸惑います。それらはすべて若年性アルツハイマーのせいでした。

アルツハイマーになった女性の多くが、初期の段階で、こうして料理をしている時に手順を思い出せなくなった経験を持っていると言われています。数えきれないほど繰り返し作った料理なら目をつぶっていても作れるはずなのに、それが思い出せないのは主婦としては大変なショックであるはずです。

この映画、料理を作るシーンはこれだけです。料理をクローズアップした映像もありません。それでも、このキッチンでの短いワンシーンはとても印象的です。観ているとハッとさせられます。「そうだ。これがアルツハイマーなんだ」と。それは、このシーンがアルツハイマーという病気の悲しさを象徴しているからです。ニキズキッチンのサイトを見ている料理好きなあなたなら、家族のために、愛する人のために、美味しい手料理を作る手間を惜しむことはないでしょう。あなたにとっては料理も愛情表現のひとつであるはず。家族が集まる食卓は幸せの場。その食卓を愛情で満たすのがあなたの手料理なのに、その料理が作れないとしたらどうでしょう。愛情を伝える大切な言葉を失ったような気持ちになるのではないでしょうか。

子どもたちが大好きでいつも作っていたカレーや、母親から教わった煮物、夫の好物のナスの味噌炒めも、作り方を思い出せなくなってしまうのです。そしていつか、大切な家族がそんな料理が好きだったことさえも思い出せなくなるのです。アルツハイマーがどんな病気かは知ってはいても、このシーンによって改めて記憶を失うことの悲しさを感じさせられます。



アリスは「人生を捧げてきたことが、何もかも消えてしまう」と苦悩し、自分が自分でなくなることに困惑します。症状の進行を認め「私が私である最後の夏よ」と夫に言います。それは余命を悟った人の言葉のようです。世話をする家族にとっては、それはいつ終わるとも知れない大きな負担を背負う日々の始まりですが、本人にとっては記憶を失うことは自分が存在しなくなるということなの0です。現在、65歳以上では4人に1人が認知症になる可能性があると言われています。そうなったときにどうするか、家族や愛する人とどう向き合い、自分の最期をどう終えるのか、この映画をきっかけにじっくりと考えておくべきかもしれません。



ちなみに、この映画を撮った監督のひとりであるリチャード・グラッツァーは、撮影開始の直前に自身が筋萎縮性側索硬化症(ALS)であることを知り、日々動かなくなる体を押して映画を完成させました。そしてこの作品がアカデミー賞を受賞した日の約2週間後に息を引き取りました。自身の病気もあって、一人称的な描き方にこだわったのでしょう。

主役のアリスを演じたジュリアン・ムーアは、この作品でアカデミー賞の主演女優賞、ゴールデン・グローブ賞の主演女優賞、英国アカデミー賞の主演女優賞など多くの賞を受賞しました。自分が自分で亡くなる事への焦りと、苛立ちと、寂しさと、立ち向かおうとする強さを見せるジュリアン・ムーアの演技はお見事。揺れる心をリアルに表現しています。

料理が中心の作品ではありませんが、料理好きな方にぜひ観ていただきたい映画です。毎日の献立を考えるのは大変だし、一日に何度もキッチンに立って料理するのが面倒で誰かにやってもらいたいわと思うこともあるかもしれませんが、この映画は大切な人のために料理できることは幸せなことだと、気付かせてくれます。

※劇場情報は公式サイトでご確認を alice-movie.com

原題:STILL ALICE
出演:ジュリアン・ムーア、アレック・ボールドウィン、クリステン・スチュワート、ケイト・ボスワース
監督:リチャード・グラッツァー、ウォッシュ・ウエストモアランド
時間:101分
製作:2014年 アメリカ
配給:キノフィルムズ

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